
顧客も増え、人も増やしたら、経営は少しずつ楽になると思っていた。
ところが実際には、
顧客が増えるほど、判断することが増える。
人を増やすほど、自分への確認が増える。
商品が増えるほど、何を主力にするのか迷う。
売上が伸びても、利益や資金がどれだけ残るのか見えにくくなる。
将来のことを考えたいのに、目の前の顧客対応だけで一週間が終わる。
事業は確実に成長している。
それなのに、以前より経営が難しくなっている。
もし、そんな状態なら。
問題は、頑張りが足りないことではないかもしれません。
創業期にうまくいった経営の進め方が、成長期では事業の限界になり始めているのかもしれません。
創業期は、経営者本人が動くほど事業が伸びます。
しかし成長期になると、その成功パターンのままでは回らなくなる。
だから必要なのは、これまで以上に頑張ることではありません。
一人の頑張りで動かす経営から、事業全体をつなげて動かす経営へ切り替えることです。
創業期は、「自分が動く」が正解
創業期に必要なのは、自分の専門性を、顧客に選ばれる事業として成立させることです。
誰を顧客にするのか。
どんな悩みを解決するのか。
自分の専門性を、どんな商品にするのか。
どうやって知ってもらい、どう伝え、どう売るのか。
この段階では、経営者本人が顧客に近く、自分で考え、自分で営業し、自分でサービスを提供することが強みになります。
お客様の反応を直接見ながら、すぐに商品を直せる。
営業で感じた違和感を、その日のうちに提案へ反映できる。
判断する人と実行する人が同じなので、とにかく速い。
専門家本人の知識、技術、判断力、行動力、顧客との信頼。
こうした「個人の力」が、そのまま事業の推進力になります。
創業期に経営者本人が何でもやることは、間違いではありません。
むしろ、そのやり方が正しかったからこそ、顧客が生まれ、売上が生まれ、事業が成立したのです。
問題は、
事業の段階が変わったあとも、同じ成功パターンだけで経営し続けることです。
創業期の成功パターンが、成長期では限界になる
事業が伸びると、扱うものが増えていきます。
顧客が増える。
商品が増える。
スタッフやパートナーが増える。
法人取引が増える。
外注費や人件費など、固定的な支出も増える。
そして、事業が広がるほど、
「自分がやれば解決する」
だけでは処理できない問題が増えていきます。
たとえば、人を採用した。
本来なら仕事が減るはずです。
ところが実際には、
何を任せるか。
どこまで任せるか。
どの基準で判断してもらうか。
どうやって品質を保つか。
を決めていなければ、結果的に常に確認をしたり、時には自分で手直しをしする必要が出てきます。
人を増やしたのに、経営者の仕事が増える。
そんな逆転が起こります。
商品も同じです。
一つの商品を自分で売っていた頃は、感覚で判断できました。
しかし商品が増えると、
どの商品を入口にするのか。
何を主力にするのか。
どれが利益を生んでいるのか。
どの商品を残し、どれをやめるのか。
を考える必要が出てきます。
成長すると、単純に問題が増えるだけではありません。
それまで経営者本人の中にあった判断を、事業全体で扱う必要が出てくるのです。
成長期は、「一人の頑張りに依存しない経営」へ変える
創業期は、自分の力で事業を成立させる段階です。
成長期は、
成立した事業を、自分一人の力だけに依存しない形へ変えていく段階
です。
経営者本人がいなければ営業できない。
経営者本人に聞かなければ判断できない。
経営者本人が提供しなければ品質が保てない。
経営者本人が数字を見なければ、誰も事業の状態を説明できない。
この状態のまま事業だけを大きくすると、経営者の負担も一緒に大きくなります。
だから成長期では、
自分の経験を、判断基準にする。
自分のやり方を、仕組みにする。
自分の頭の中にある顧客理解を、言葉にする。
自分の感覚だけで見ていた経営状態を、数字で確認できるようにする。
自分だけで届けていた価値を、ほかの人でも再現できるようにする。
こうした転換が必要になります。
そして同時に、経営者自身の仕事も変わります。
創業期は、自分で営業し、自分でサービスを提供し、自分で問題を解決することが重要でした。
成長期になると、それに加えて、
どこへ向かうのかを決める。
誰を顧客にするのかを決める。
何を主力商品にするのかを決める。
人、お金、時間をどこへ配分するのかを決める。
誰に何を任せるのかを決める。
何を仕組みにし、何を自分が持ち続けるのかを決める。
数字と現実を見ながら、計画を修正する。
といった仕事が増えてきます。
つまり、
自分が仕事をするだけではなく、事業全体が動くための判断をすること
が、経営者の重要な仕事になります。
これは、現場から完全に離れるという意味ではありません。
専門家本人にしか届けられない価値もあります。
自分で顧客と向き合うことに意味がある仕事もあります。
大切なのは、
「自分にしかできないからやる」のか。
それとも、
「自分がやった方が早いから、何となくやり続けている」のか。
を分けることです。
なお、成長期は売上額や社員数だけで決まるものではありません。
顧客が増えた。
商品が増えた。
関わる人が増えた。
取引の種類が増えた。
固定費や投資判断が増えた。
そして、
経営者一人の感覚と稼働だけでは、全体を回しにくくなってきた。
その状態になった時点で、経営の切り替えは始まっています。
経営者本人の個人技で動かす経営から、事業全体をつなげて動かす経営へ。
これが、私の考える成長期の経営です。
すべてを仕組みにすればいいわけではない
成長期になると、
人材。
商品。
営業。
数字。
業務。
ブランド。
経営者自身の役割。
さまざまなテーマが同時に出てきます。
だからといって、急に会社らしくしようとして、すべてにルールをつくる必要はありません。
会議を増やす。
マニュアルを増やす。
ツールを増やす。
管理項目を増やす。
それだけでは、かえって経営が重くなることもあります。
大切なのは、仕組みを増やすことではありません。
いまの事業全体を見て、何を変える必要があるのかを決めることです。
何が、まだ経営者本人に依存しているのか。
どこで判断が止まっているのか。
どの商品が全体を複雑にしているのか。
どの数字が見えていないのか。
何を変えれば、ほかの問題まで軽くなるのか。
そのうえで、必要なところから順番に変えていく。
成長期の経営は、仕事や仕組みを増やすことではありません。
事業全体を見て、いま経営者が取り組むべきことに優先順位をつけることです。
専門家としてつくった価値を、事業として育てていく
創業期には、専門家本人の力が事業をつくります。
専門性があった。
お客様に向き合ってきた。
試行錯誤しながら、商品を磨いてきた。
自分で営業し、自分で届けてきた。
その積み重ねがあったから、事業は成立しました。
成長期に必要なのは、その強みを捨てることではありません。
専門家本人の中にある価値を、商品、人材、仕組み、判断基準を通じて、事業全体で届けられる形に変えていくことです。
専門家であることをやめるのではない。
専門家としての仕事に、経営者としての仕事を加える。
自分がすべてをやる事業から、
自分がつくった価値を、事業全体で届けられる状態へ変えていく。
これまでの経営が間違っていたわけではありません。
創業期には、創業期の正解があった。
そして、事業が成長した今は、
次の段階の正解が必要になった。
それだけです。
創業期の経営から、成長期の経営へ。
一人の頑張りで動かす経営から、事業全体をつなげて動かす経営へ。
ここからが、専門家事業の次の成長です。