施策がうまくいかなかったとき、経営者はどう立て直すか——次の一手へ戻るための考え方

セミナーを企画したけれど、人が集まらなかった。
新しいサービスを出したけれど、思ったほど反応がなかった。
提案をしたけれど、受注にはつながらなかった。
経営をしていれば、思ったような結果にならないことはあります。そのたびに気持ちが落ち込み、次に何をするかを考えられなくなることもあるでしょう。
経営者に必要なのは、何があっても凹まない強さではありません。
うまくいかなかった結果と自分自身を分け、起きたことを整理し、次の判断へ戻れる状態をつくることです。
私自身、施策がうまくいかなければ「ああ、ダメだったか」と思います。ただ、あまり長くは引きずりません。
それは、最初から一つの施策が必ずうまくいくとは考えず、次の手を用意していること。そして、気持ちが揺れたときに戻るための習慣を持っていることが大きいと思います。
一つの施策が外れたことと、経営者としての能力は別
施策がうまくいかないと、結果だけでなく、自分の考え方や能力まで否定したくなることがあります。
「なぜダメだったのだろう」
「自分の考え方が間違っているのではないか」
「この仕事に向いていないのではないか」
しかし、一つの施策から分かるのは、その条件、その伝え方、その相手、その時期では、想定した結果にならなかったということです。
そこから改善点を見つける必要はありますが、一度の結果だけで、経営者としての能力まで判断することはできません。
たとえば、セミナーに人が集まらなかった場合でも、考えられる理由は一つではありません。
- テーマが対象者の悩みと合っていなかった
- 告知文から参加する意味が伝わらなかった
- 届けたい相手に情報が届いていなかった
- 開催日時や形式が参加しにくかった
- 申し込むまでの導線に分かりにくい部分があった
このとき、「自分にはセミナーを企画する力がない」と結論づけても、次の判断にはつながりません。
見るべきなのは、自分を評価する材料ではなく、どこで想定と違いが起きたのかという事業の情報です。
最初の一手でうまくいく前提を置かない
先日、セミナーの受講生から、こんな質問をされました。
うまくいかなかったときって、凹むじゃないですか。苅谷さんは、どうやってリカバリーしているんですか?
改めて考えてみると、私が長く引きずらない理由の一つは、「うまくいかない前提で始めている」ことでした。
これは、最初から悲観的に考えるという意味ではありません。
新しいことを始めるとき、最初の一手でうまくいく確率は、それほど高くないと考えているということです。
コンサルタントとして30年以上、さまざまな経営やビジネスの現場に関わり、私自身も創業して22年間経営をしてきました。その中で、一つの施策だけで思いどおりの結果が出ることの方が少ないと感じています。
そのため、何かを始めるときは、
「これがダメだったら、次はこれ」
「それも違ったら、その次はこれ」
と、最低でも五つくらいは次の手を考えています。
五つ用意することが、すべての経営者にとっての正解ということではありません。大切なのは、一つの方法だけに期待を集中させないことです。
次の選択肢があると、最初の施策がうまくいかなかったときも、「すべてが失敗した」ではなく、「この方法では想定した反応が得られなかった。では次を試そう」と考えやすくなります。
失敗というより、判断するためのデータが一つ増えた感覚に近くなります。
うまくいかなかったときに確認する四つのこと
思ったような結果が出なかったとき、すぐに新しい施策へ飛びつく必要はありません。
まず、次の四つを整理します。
1.当初、どのような結果を想定していたか
申込数、問い合わせ、商談での反応、既存顧客の利用など、何を見て「うまくいった」と判断する予定だったのかを確認します。
期待していた結果が曖昧なままだと、実際には一定の成果が出ていても、感覚だけで「ダメだった」と判断してしまうことがあります。
2.実際には、どこで想定と違ったか
誰にも見てもらえなかったのか。見てもらえたが、関心を持たれなかったのか。関心は持たれたが、申し込みには進まなかったのか。
同じ「売れなかった」という結果でも、止まっている場所によって次に変えることは違います。
3.自分で変えられる部分はどこか
お客様がどう反応するかは、経営者が直接決めることはできません。
一方で、誰に届けるか、何を伝えるか、どの方法を使うか、どこまで続けるかは、自分で選べます。
起きた結果をすべて自分の責任にする必要はありませんが、自分が変えられる部分まで手放す必要もありません。
4.次に小さく試すことは何か
うまくいかなかったからといって、企画全体を捨てる必要はありません。
対象者を変える。タイトルを変える。説明の順番を変える。届ける場所を変える。個別に話を聞いてから、もう一度試す。
一度にすべてを変えると、何が結果に影響したのか分かりにくくなります。次に確認したいことを一つ決め、小さく試す方が、その後の判断に使える情報を得やすくなります。
コントロールできないことに、エネルギーを使いすぎない
経営には、自分でコントロールできることと、できないことがあります。
自分でコントロールできるのは、何を考えるか、どの施策を打つか、誰に会うか、今日何をするかといった、自分の判断と行動です。
一方で、お客様がどう反応するか、取引先がどう判断するか、社会情勢や景気がどう変わるかは、自分だけでは決められません。
感情も、完全にコントロールできるものではありません。
嫌なことがあれば、嫌な気持ちになります。期待していた結果が出なければ、落ち込むこともあります。
そこで「経営者なのだから凹んではいけない」と感情まで否定すると、起きたことを整理する前に、自分を立て直すためのエネルギーを使ってしまいます。
凹むときは、凹んでもよいと思います。
ただし、コントロールできない結果や、すでに起きたことに留まり続けるのではなく、次に自分が選べることへ意識を戻します。
「次は何を変えるのか」
「別の伝え方はないか」
「届ける相手は合っていたか」
「もう一つ試すとしたら何か」
この切り替えが、次の判断へ戻るということです。
経営判断へ戻るために、自分の状態を整える
頭では「次へ進めばよい」と分かっていても、気持ちがついてこないことはあります。私にもあります。
そのため、普段から自分の状態を整えることを意識しています。
私の場合は、ジムへ行く。Jazzを聴く。しっかり寝る。
どれも特別な方法ではありません。しかし、自分の状態が整っていると、何かあっても大きく崩れにくくなります。凹んだとしても、戻りやすくなります。
これは、気分転換だけの話ではありません。
経営者の状態は、その後の判断に影響します。気持ちが大きく乱れたままでは、必要以上に施策を変えたり、反対に止めるべき施策を意地になって続けたりすることがあります。一度の結果を見て、自分やスタッフを強く責めてしまうこともあるかもしれません。
だから、体を動かしたり、音楽を聴いたり、睡眠を取ったりする時間は、経営者である自分を判断へ戻すための時間でもあります。
何をすれば戻りやすいかは、人によって違います。
大切なのは、落ち込んでから慌てて方法を探すのではなく、自分はどのような状態になると判断しづらくなるのか、何をすると戻りやすいのかを、普段から知っておくことです。
経営者が最初にマネジメントするもの
経営者は、売上、お客様、商品、スタッフ、業務、お金を見ながら、これからどうするかを判断します。
しかし、そのすべてを判断しているのは経営者自身です。
そう考えると、事業をマネジメントするためには、経営者である自分自身をどう扱うかも考える必要があります。
セルフマネジメントは、「強い心を持つ」「いつも前向きに考える」といった精神論ではありません。
- 一つの結果と、自分自身への評価を分ける
- 施策を始める前に、次の選択肢を用意する
- 自分で変えられることと、変えられないことを分ける
- 気持ちが揺れたあと、判断へ戻るための習慣を持つ
このように、自分が動きやすく、判断しやすい条件を整えておくことです。
最初から「絶対にうまくいく」と思っていなければ、うまくいかなかったときは「では次」と考えられます。そして、うまくいったときは、素直に喜べます。
経営をしていれば、これからも思いどおりにならないことは起こります。
そのたびに凹まない人になる必要はありません。
凹んだあとに戻ってこられること。戻ってきたときに、「では次に何を試そうか」と考えられること。
事業を動かし続ける経営者にとって、その状態をつくることも、経営の一部だと私は考えています。
事業の成長に合わせて経営者自身の役割をどう変えていくかについては、「創業期の経営から、成長期の経営へ。」で詳しく整理しています。