AIでセミナー資料は作れても、セミナー設計を丸投げできない理由

生成AIを使えば、セミナーの構成案も、テキストも、スライドも短時間で作れるようになりました。
しかし、資料が整っていることと、よいセミナーになっていることは同じではありません。
私自身、構成からテキストまで多くをAIに作ってもらい、その内容を使って講義したことがあります。見た目は整っていて、内容に大きな間違いもありませんでした。
それでも、実際に話してみると、驚くほど話しづらかったのです。
その理由は、AIを使ったことではありません。
「なぜこの順番で伝えるのか」「この話を聞いたあと、受講者に何を考えてほしいのか」という設計まで、AIへ渡してしまっていたからです。
AIに任せやすいのは、資料を作る作業です。講師が決めるべきなのは、受講者にどのような変化を届けるか、そのための時間をどう設計するかです。
「これ、私が作ったセミナーではない」と感じた瞬間
私は、内容もテキストもすべて決まっていて、そのとおりに話すだけの講師依頼を、あまり引き受けていません。
決められた内容を分かりやすく伝えることにも、技術は必要です。ただ、私が主に引き受けているのは、主催者から企画の意図や対象者を聞き、そこから構成、事例、ワーク、テキストを考える仕事です。
ところが以前、「これだけ作ってくれるなら、かなりの部分をAIに任せてもよいのではないか」と考え、構成からテキストまで作ってもらったことがあります。
資料としては成立していました。順番に説明すれば、講義も進みます。
しかし、話している私の中に流れがありませんでした。
次のスライドに進み、書いてあることを説明する。また次へ進み、説明する。その繰り返しになっていました。
なぜ、ここでこの話をするのか。なぜ、この事例を選んだのか。この話を聞いた受講者に、次に何を考えてほしいのか。
その理由が、自分の中でつながっていなかったのです。
そこで気づきました。
「これでは、『内容もテキストも決まっているので、そのとおりに話してください』という依頼と同じではないか」と。
作ったのが主催者かAIかという違いはあっても、私は、出来上がったものを順番に説明する人になっていました。
資料を作ることと、セミナーを設計することは違う
セミナーには、伝えたい情報が必要です。正確な説明も、見やすい資料も欠かせません。
ただし、情報を並べれば、そのまま受講者の理解や行動につながるわけではありません。
同じ内容でも、最初に何を伝えるかによって、その後の話の受け取られ方は変わります。説明を続けるより、途中で自分の状況を振り返ってもらった方が理解が深まることもあります。講師の事例を聞くより、受講者同士で話した方が気づきにつながる場面もあります。
だから私は、セミナーを作るとき、資料の前に当日の時間を考えます。
参加者は、どのような気持ちで会場へ来るのか。何に困り、何を期待しているのか。受講前には分からなかった何を理解し、終わるときには何を考えられるようになってほしいのか。
そこから逆算して、説明する内容、事例、ワーク、参加者同士で話す時間を組み立てます。
セミナー設計とは、話す内容を決めることだけではありません。受講者の現在地から、理解や行動の変化までをつなぐ時間を作ることです。
AIに任せやすい作業と、講師が決めること
AIを使わない方がよい、という話ではありません。私自身、資料作成にAIを使っています。
大切なのは、どこを任せ、どこを自分で決めるかを分けることです。
| AIに任せやすい作業 | 講師が決めること |
|---|---|
| 情報を整理する | 誰に、どのような変化を届けるか |
| 構成案の候補を出す | なぜ、この順番で伝えるか |
| 文章やスライドの初稿を作る | どの事例を、何のために使うか |
| 事例やワーク案の候補を出す | どこで説明を止め、考えてもらうか |
| 誤字脱字や表現を確認する | 当日をイメージして最終的なページ構成へ編集する |
この区分は、作業する人が人間かAIかだけで決まるものではありません。
たとえば、AIが出した構成案を採用しても、「なぜこの順番なのか」を講師自身が考え、必要に応じて組み替えているなら、設計を手放したことにはなりません。
反対に、自分でスライドを一枚ずつ作っていても、伝えたい知識を順番に並べただけなら、受講者の時間を設計したとは言いにくいでしょう。
見るべきなのは、誰が資料を作ったかではありません。
受講者へ届けたい変化と、そこへ進む理由を、講師自身が説明できるかどうかです。
設計までAIへ渡していないかを確認する四つの問い
AIを使って作ったセミナーが、自分の中でつながっているかどうかは、次の四つの問いで確認できます。
1.受講前と受講後で、参加者の何が変わるのか
「知識を理解してもらう」だけでは、まだ広すぎます。
受講後、参加者が自社の問題を見分けられるようになるのか。明日最初に確認することを決められるのか。これまでとは違う方法で、スタッフと話せるようになるのか。
届けたい変化が具体的になると、必要な内容と、削ってよい内容を判断しやすくなります。
2.なぜ、この順番で伝えるのか
各章の内容が正しくても、順番に理由がなければ、話はつながりません。
最初に現状を整理するのか。考え方を説明してから事例を見せるのか。先に問いを投げかけ、自分なりの答えを持ってから解説を聞いてもらうのか。
順番の理由を説明できれば、AIが作った案をそのまま採用するか、組み替えるかも判断できます。
3.この事例とワークには、どのような役割があるのか
事例やワークがあるだけで、参加型のセミナーになるわけではありません。
事例は、抽象的な考え方を具体化するためなのか。自分の思い込みに気づいてもらうためなのか。ワークは、知識を確認するためなのか、自社へ置き換えるためなのか。
役割が曖昧な事例やワークは、時間を使っても受講者の変化へつながらないことがあります。
4.参加者の反応が想定と違ったら、何を残し、何を変えるのか
当日は、想定より理解が早いこともあれば、予想していなかったところで質問が出ることもあります。
そのとき、何を必ず持ち帰ってもらい、どこは短くしてよいのか。別の事例へ変えるのか、説明より対話の時間を増やすのか。
セミナーの目的と各部分の役割が分かっていれば、資料どおりに進めることだけに縛られず、その場に合わせて調整できます。
四つの問いに答えにくい場合は、資料が足りないのではなく、設計の理由がまだ講師自身の中でつながっていないのかもしれません。
AIで短くなった時間を、何に使うか
AIによって、資料作成にかかる時間は大きく短くなりました。
先日の依頼セミナーでは、私が考えた内容を渡し、58ページのテキストの初稿を生成AIに作ってもらいました。初稿ができるまでにかかった時間は、約5分です。
その後、内容を確認し、表現を変え、ワークを組み込みました。それでも、以前なら3日ほどかかっていたテキスト作成を、約3時間で終えることができました。私が確認した範囲では、大きな誤字脱字もありませんでした。
この効率化は、私にとって大きな価値があります。
ただ、短くしたかったのは、考える時間ではありません。
文章を入力し、体裁を整え、何度も同じ修正をする時間です。そこで生まれた時間を、事例が受講者に合っているか、ワークの問いは答えやすいか、説明が多すぎないかを考えることに使えます。
ぎりぎりまで内容を見直し、よりよい時間にする余裕も生まれました。
AIで作業時間が減るほど、講師が何を考えるかは、むしろはっきりします。
セミナーは、一皿の料理に似ている
私は、セミナーを一皿の料理に似ていると考えています。
料理を食べる時間は、それほど長くありません。しかし、その一皿が出てくるまでには、メニューを考え、材料を選び、仕込みをし、火を入れ、盛りつける工程があります。
セミナーも、受講している2時間、3時間だけでできているわけではありません。
主催者の意図を理解し、受講者を想像し、構成を作り、事例を選び、ワークを考え、当日の反応を見ながら届ける。そこまで含めて、一つのセミナーです。
AIは、その工程の一部を速くしてくれます。しかし、どのような一皿を、誰に、なぜ届けるのかまで自動的に決まるわけではありません。
資料を作る前に、受講後の変化を決める
AIを使えば、整った資料を短時間で作れます。知識を正確に伝えることが目的なら、AIが作った教材や動画で十分な場合もあるでしょう。
一方で、参加者に自分の状況を考えてもらうセミナーや、その場の反応を見ながら理解を支えるセミナーでは、資料だけで価値は決まりません。
重要なのは、AIを使ったかどうかではなく、講師が設計者として何を決めたかです。
最近作ったセミナーを、一度振り返ってみてください。
- 受講前と受講後で、参加者の何が変わるのか
- なぜ、この順番で伝えるのか
- 各事例とワークには、どのような役割があるのか
- 参加者の反応が想定と違ったら、何を残し、何を変えるのか
この四つを自分の言葉で説明できれば、AIを使って資料を作っても、そのセミナーの設計者は自分です。
AIに作業を任せることで生まれた時間を、受講者に何を届けたいのかを考える時間へ使う。
それが、AI時代に講師が手放さずに持っておきたい役割だと、私は考えています。