スタッフが自分で考え、行動できるようになる育て方——初めて人を雇った経営者へ

初めてスタッフを雇うと、「これで自分の仕事を少し任せられる」と期待します。
ところが実際には、細かな質問が続く。指示したことはやってくれるけれど、次に何をすればよいかは毎回聞かれる。
そこで、「もう少し自分で考えて動いてほしい」と感じる経営者も多いのではないでしょうか。
あるいは、信頼して任せたら、望んでいた成果を上げてくれず、結果的に自分でやり直したり、こんなものかと落胆したり。
ただ、スタッフへ「自分で考えて」と伝えるだけで、自分で考えられるようになるわけではありません。
信頼して任せるだけで、望む結果を出せるようになるわけでもありません。
育成とは、答えをすべて教えることでも、何も教えずに経験させることでもないのですね。
考えるために必要な情報と判断基準を渡し、考えた過程を確認し、判断した理由を共有する。
その繰り返しによって、自分で判断できる範囲が少しずつ広がっていきます。
教えすぎても、任せすぎても育たない
私自身、スタッフへ常に指示を出し、質問されるたびに答えを伝えていた時期があります。
その方が、目の前の仕事は早く進みます。
しかし、それを続けたことで、スタッフを「分からなければ何でも聞けばよい」「確認してからでなければ動かない」という状態にさせてしまいました。
反対に、「任せる」という名目で、ほとんど確認せずに進めてもらったこともあります。
ところが、完成した資料は、こちらが考えていたものとは違っていました。
結局、締め切り間際に自分で作り直したり、大きく手直ししたりして、かえって慌ただしくなりました。
細かく指示し続けても育たない。かといって、何も伝えずに任せるのは放任になり得ます。
この経験があってから、最初に仕事の目的とゴールイメージを共有し、途中で一度確認し、最後に成果物を確認するようになりました。
スタッフ育成では、どこまで教え、どこから考えてもらい、いつ確認するのかを決めることが必要です。
自分で考え、行動できるとは、質問しないことではない
スタッフから質問が来ると、「まだ自分で考えられていない」と感じるかもしれません。
しかし、質問がないことが、必ずしもよい状態とは限りません。
顧客への影響が大きいことや、これまでにない例外まで自己判断で進めてしまえば、問題が大きくなる場合があります。
分からないことを抱え込んだまま、時間だけが過ぎることもあります。
私が考える「自分で考え、行動できる状態」は、次のような状態です。
- 仕事の目的を踏まえて、次に行うことを考えられる
- 自分で決めてよい範囲では、判断して進められる
- 分からないときに、どこまで考え、何に迷っているかを説明できる
- 顧客や事業への影響が大きい例外は、抱え込まず相談できる
見るべきなのは、質問の数だけではありません。
「どうすればいいですか」という質問が、「私はこう考えましたが、この点に確信が持てません」という相談へ変わっているか。
質問の内容とタイミングも、成長を確認する材料になります。
そして、これをすることで、スタッフの成長を感じることができるようにもなります。
大変だけど、やはり、人が成長する姿を目にできることは本当に嬉しいものです。
育成は「渡す→考える→対話する→任せ直す」
スタッフが自分で判断できる範囲を広げるために、育成を四つの段階に分けて考えてみましょう。
1.考えるための材料を渡す
最初に渡すのは、作業内容だけではありません。
- 何のために行う仕事か
- どのような状態になれば完成か
- 判断するときに何を優先するか
- どこまで自分で決めてよいか
- どの状態になったら相談するか
こうした材料がなければ、スタッフの仕事は、経営者が頭の中で考えている正解を当てる作業になってしまいます。
2.本人が考える時間をつくる
私は、初めての仕事を任せるとき、「やり方やまとめ方を30分考えても分からなかったら、相談に来てね」と伝えています。
すぐに答えを聞くのではなく、まずは自分で考えてもらう。
一方で、見通しが立たないまま何時間も抱え込まない。その切り替えの線を、あらかじめ共有するためです。
30分という数字が、すべての仕事に共通する正解ではありません。
顧客、金額、納期、法令などに大きく影響する判断は、迷った時点で相談してもらいます。
大切なのは、自分で考える範囲と相談する条件を決めておくことです。
3.答える前に、スタッフの現在地を確認する
スタッフが相談に来たとき、私はまず次のことを確認します。
「どこまではできて、どこからできないのか」
「形にはできたけれど、これでよいか確信が持てないのか」
同じ「分からない」という相談でも、現在地によって必要な対応は違います。
情報が足りないなら情報を補い、判断基準が分からないなら、その理由を伝えます。
例えば、提案相手がいつもの担当者ではなく、その上長である担当役員だったことがあります。
役員は、現場の担当者とは異なり、会社経営の観点からリスクや判断材料を求めています。
このとき、「役員向けだから資料を直して」とだけ伝えても、次の仕事にはつながりません。
相手の立場が変われば、同じ提案でも必要な情報や見る視点が変わる。そこまで伝えることで、スタッフは次の類似場面でも考えやすくなります。
4.もう一度任せ、理解できているかを見る
フィードバックをしたからといって、伝わったとは限りません。
本人は理解したつもりでも、違う意味で受け取っていることがあります。
そこで、似た仕事をもう一度任せ、前回伝えたことを理解して対応できているか、何か思い違いをしていないかを確認します。
できていないところだけを見るのではなく、前回できなかったことができるようになったなら、その成長も本人へ伝えます。
何ができるようになったのかを言葉にすることで、本人も自分の判断の変化を認識できます。
教え方の粒度は、雇用形態ではなく現在地で変える
正社員、パート、業務委託では、任せる責任範囲は当然異なります。
一方、日々の教え方は、雇用形態だけで決めるものではありません。本人の理解力や対応力、その仕事への習熟度を見て変えます。
私は、大きな単位で理解して進められる人を「三段跳びで進める人」、一つずつ確認した方が進みやすい人を「一段ずつ進む人」と考えています。
三段跳びで進める人には、要点を伝えて任せた後、私は三回程度確認します。
一段ずつ進む人には、仕事をステップへ分解し、一段ごとに確認します。
また、初めて取り組む仕事では、経営者やすでにできるスタッフが、まずやって見せる。
その後で説明し、本人にやってもらい、フィードバックします。
これは、人を固定的なタイプへ分けるという意味ではありません。
同じ人でも、慣れた仕事なら大きく任せられ、初めての仕事なら一段ずつ確認した方がよい場合があります。
そして、このやり方でもうひとつ重要なのが、本人のモチベーションです。
三段跳びで進める人や状態の時に、一段ずつ指示をするともどかしく感じます。
一段ずつ進む人や状態の時に、要点だけを伝えて任せると、不安になります。
要は、相手と仕事の現在地に合わせて、教える大きさを変えるということです。
教え方が機能しているかは、三つの変化で見る
スタッフの成長は、「もう質問してこない」という一点では判断できません。次の変化が起きているかを見ます。
- 質問が「どうすればいいですか」から「私はこう考えました」へ変わったか
- 同じ種類の仕事で、前回伝えた判断理由を使えているか
- 通常のケースは自分で進め、例外を選んで相談できているか
一度の説明で変わらなくても、すぐに本人の主体性や能力の問題へ結論づける必要はありません。
目的や判断基準が十分に伝わっているか。
仕事の分け方が、現在の理解度に合っているか。まず、教える側で調整できる場所を確認します。
経営者の答えではなく、判断の仕方を渡す
初めて人を雇うと、経営者には「自分で仕事をすること」に加えて、「自分がどう考えているかを伝えること」が必要になります。
答えを教え続ければ、目の前の仕事は早く進みます。しかし、次も経営者の答えが必要になります。何も伝えずに任せれば、最後に大きな手戻りが起こるかもしれません。
目的とゴールを共有する。本人が考える時間をつくる。相談では現在地を確認し、判断した理由まで伝える。そして、もう一度任せて、使えるようになったかを見る。
この繰り返しによって、スタッフが自分で判断できる範囲は少しずつ広がります。経営者の仕事も、毎回答えを出すことから、判断の仕方を事業の中へ残すことへ変わっていきます。
仕事をどこまで任せ、どこで確認するかを整理したい方は、「仕事を任せたのに経営者の仕事が減らないのはなぜか——『任せる』と『丸投げ』の違い」もあわせてご覧ください。